神戸地方裁判所 昭和58年(行ク)23号 決定 1983年12月05日
申立人(原告)
桑原晴子
同(参加原告)
桑原昭三
被申立人(被告)
赤穂市
右代表者市長
笠木忠男
被申立人訴訟代理人
小西隆
外三名
主文
本件申立をいずれも却下する。
理由
一原告らの申立及び被告の意見
原告らの申立は別紙(一)に、これに対する被告の意見は同(二)に、それぞれ記載のとおりである。
二当裁判所の判断
1 訴訟当事者は、現行民事訴訟法上、原則として、その所持する文書を法廷に提出してこれを相手方等の了知するところとさせるかどうかの処分権限を有しているところ、同法三一二条三号後段は、挙証言と当該文書の所持者との間に一定の法律関係があり、その法律関係について作成された文書については、挙証者の利益のために、例外的に右所持者の処分権限を制限し、相手方は、その提出を求めることができるものとしたものと解すべきである。
2 ところで、行政委員会、審議会等の合議制の機関による意思決定は、その判断を慎重にし、各種の利害を調和させた申立、公正な結論をうることができるという長所を有するが、こうした合議制の長所が十分に生かされるためには、その前提として、合議体の構成員間において自由な交換を行いうる状況にあることが必要である。こうした合議体の審議の多くが非公開とされていることは、まさに右の理由によるものである。そして、このような審議内容を非公開とする合議体の意思決定については、合議体内部で行われた審議それ自体に意義があるのではなく、それは、あくまでも、最終判断に到達するための過程にすぎず、合議体としての最終判断が行われ、それが外部に表示されてはじめて一定の法律関係が生じるものである。
このように考えるならば、審議内容を非公開としている合議機関の意思決定にかかる文書については、当該合議体の最終判断を記載したものだけが、挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された文書であつて、審議の経緯内容を記録した議事録等の文書は、これに該当しないものというべきである。
3 そこで、これを本件についてみるのに、原告らがその提出を求めている文書(以下、「本件文書」という。)は、土地区画整理法五六条一項、西播都市計画上仮屋土地区画整理事業施行規程(昭和四一年赤穂市条例第二三号)第七条に基づいて被告が設置した西播都市計画上仮屋土地区画整理審議会(昭和四三年法律第一〇〇号による都市計画法の全面改正に基づき、赤穂都市計画区域を西播都市計画区域に改正したため、名称を現在のように変更。)の議事録であるところ、土地区画整理法、同法施行令又は同法施行規則においてもその作成を義務付ける明文上の証拠はなく、単に被告の定めた赤穂都市計画上仮屋土地区画整理審議会規則(昭和四二年一〇月三一日規則第二〇号)第一五条においてその作成が義務付けられているに過ぎず、しかも、同条の要求する議事録の記載事項も別紙(三)記載のとおりである(同記載(1)ないし(4)につき、順次同一ないし四号。)。そして、右審議会の会議は非公開とされている(同規則五条)。
すなわち、本件文書は、西播都市計画上仮屋土地区画整理審議会会長において、同審議会の運営の便宜のため、非公開で行われた審議の内容を要約して記載した同審議会の内部的な記録文書であるにすぎないことが明らかである(本件記録によれば、同審議会は、答申書(乙第一四号証)と題する書面で本件申立において原告らが問題としている昭和四七年八月三〇日開催の審議会における審議事項を同日付で赤穂市長に対して答申していることが認められるが、これが審議会としての最終判断と解すべきである。)から、民事訴訟法三一二条三号後段所定の文書には該当しないというべきである。
4 よつて、原告らの本件申立をいずれも却下することとし、主文のとおり決定する。
(村上博巳 笠井昇 田中敦)
別紙(一)
一 文書の表示
昭和四七年八月三〇日開催の西播都市計画上仮屋土地区画整理審議会の第一七号議案についての議事録(但し、申立外桑原ふさ江の意見書に対する審議部分。)
二 文書の趣旨
被告が、西播都市計画上仮屋土地区画整理事業において、土地区画整理法、同法施行令及びその他関係法規に基づいて作成した文書である。
三 文書の所持者
被告
四 証すべき事実
被告が申立外桑原ふさ江に対して昭和五二年一二月二〇日付でした本件換地処分が土地区画整理法、同法施行令及びその他関係法規に基づいて行われていない事実
五 文書提出義務の原因
本件申立にかかる文書は原告らと被告との間の法律関係につき作成されたものであるから、被告は、民事訴訟法三一二条三号後段により提出義務を負うものである。
別紙(二)
1 本件申立は、不適法であつて却下を免れない。
そもそも、土地区画整理事業施行者は、土地区画整理法(以下、「法」という。)八四条、同法施行令(以下、「令」という。)七三新の規定により、関係簿書を事務所に備えつけておかなければならないとされているが、同条にいうところの事業計画に関する図書とは、法六条一項に規定されているものを指し、具体的には土地区画整理法施行規則(以下、「規則」という。)五ないし七条に定められているものであり、また、換地計画に関する図書とは、法八七条、規則一二ないし一四条に規定されているものである。
そして、これらの簿書が、いわゆる正式簿書といわれ、主たる事務所に備え付けて関係者らの閲覧に供すべき図書とされているのであつて、その他のものは、施行者が内部事務処理の便宜上、裁量的に作成する覚書的ないし備忘録的な文書にすぎないのであるから、文書提出命令の対象にはならないものというべきである。
2 西播都市計画上仮屋土地区画整理審議会(以下、「本審議会」という。)の会議の会議録(議事録)は法八四条に規定する備え付け簿書に該当しない。
ところで、審議会の会議の運営については公開する旨の規定はなく、本審議会の会議は非公開で運用されており(赤穂都市計画上仮屋土地区画整理審議会会議規則第五条参照)、その議事録は一般の縦覧には供されていない。
これは、本審議会が各種処分について審議を行うにあたり、各委員の発言、討議の内容が公表されることになると関係権利者の各委員個人に対する不満や非難を喚起する事態も予想され、審議会における委員の公平かつ自由な討議に支障をきたすおそれがあること、また、関係者のプライバシー等に関する事実も公表される結果となる可能性もあるからである。
法八四条、令七三条三号にいう審議会の意見を記載した書類とは乙第一四号証のような書類をいい、これは事務所に備え付け、対外的に閲覧に供すべき書類とされているが、非公開の審議経過を記録した土地区画審議会の会議録(議事録)は専ら審議会内部における事務処理の必要のため、事実上作成した覚書的記録文書であり、およそ挙証者である相手方の利益のために作成した文書でなく、かつ、本事業における相手の地位、権利、又は権限を明らかにする性質のものでもない。
また、本審議会の会議録(議事録)は原告らに対する換地処分の法律関係の成立過程において作成した文書ではあるが、前述のとおり、専ら本審議会が自己使用の為に作成した内部的な覚書的記録文書であり、右法律関係につき作成された文書ではない。
3 よつて、本件申立にかかる土地区画整理審議会の議事録は、「挙証者の利益のため作成された」文書又は「挙証者と文書の所持者との間に法律関係につき作成された」文書のいずれにも該当しないことが明白であるから、本件文書提出命令申立は却下されるべきである。
別紙(三)
(1) 会議の日時および場所
(2) 委員の出欠状況ならびに出席した関係職員の氏名
(3) 会議のてん末
(4) その他会長が必要と認めた事項